釉薬口伝

このページは、「まるこげブログ」に書きなぐった釉薬説明のログで間違いも多いでしょうが、大目に見てください。
      釉薬名称                説   明
     亜鉛結晶釉 釉薬の表面に、ウィレマイト(珪酸亜鉛)の結晶を析出させた釉薬。
亜鉛と珪酸分を多く含むアルカリ釉を酸化焼成し、降温期に除冷する事で、珪酸亜鉛の結晶を大きく育てるもので、放射状、菊花状の美しい結晶が得られる。
素地土には磁器質の物が適しており、鉄分のある素地土は作品とするのが難しい。
各種酸化金属で着色する事は出来るが、好ましい色合いを得るのが難しく、例えばニッケルなどは地色が黄茶色となり結晶は綺麗な青色となる。
この青色はコバルトを添加して得られる青色よりも美しいが、地の黄茶色をコントロール出来る添加量を探らなければならない。
      青織部釉 一般的に使用されている青織部釉は透明釉に銅成分を3〜5%添加して、緑色に発色させた物である。
青味を帯びたものから黄色味を帯びたものまであり、好みが分かれる処である。
透明釉を亜鉛系にして黄色味を出したり、チタンをいれて黄色味を出したり、マグネシア分を入れて渋めの色合いにしたり、骨灰やジルコン、チタンの少量の添加で色合いを変えたり、バリウムの透明釉薬で青味を出したりと千差万別である。
しかし、古陶に限って見てみると、そのほとんどは条痕が見え流れている。
また色合いも非常に澄んでいて美しい。
あくまで想像であるが、厳選した珪酸質の多い木灰単味に銅成分を添加して焼成したのではないかと思われる色合いである。
もしかすると、少量の長石質原料を混ぜているかもしれない。
いずれにせよ、古陶の青織部のような物を得たいと思うと、木灰類の選別が難しそうである。
       飴釉 染付釉などと比べて、アルカリ分を多くした基礎釉薬に鉄分を多量に添加すると、飴釉薬となる。
鉄分の添加量は基礎釉にもよるが、大凡5〜10%で、同じ飴色でも黄色系のものから赤色系の物まで様々な発色が得られる。
最近では、安定した飴色を得るために、マンガンなどを少量添加するケースも多いが、色調が単調に成りやすい。
酸化焼成、還元焼成で色調に変化が出にくいが、鉄分の添加量が少ないタイプでは、緑色味を帯びた飴色となる。
含鉄土石に石灰分や木灰などを添加した方がムラが出やすい反面味わい深い物と成りやすい。
     伊羅保釉 高アルカリ、高アルミナの釉薬に鉄分が混入して発色する釉薬である。
珪酸分は多くなると、伊羅保釉の調子を阻害する。
通常はこのような釉薬に鉄分を5〜6%配合して作るが、アルミナの成分の一部を燐酸アルミに置き換える事で赤い色調の伊羅保となる。。
この場合、燐酸アルミとしては3〜6%が適当。
また燐酸アルミを骨灰や燐酸カルシウムに置き換えると、黄赤伊羅保と成りやすい。
さらに、この釉薬にジルコニウムや錫等を入れると赤色がハッキリする効果がある。
相対的に鉄分を少なくする事で、黄色の伊羅保となりやすく、この場合にもジルコニウムや錫は効果が有る。
鉄分の代わりに、銅やコバルト、ニッケルなどの酸化金属を利用しても、それぞれの金属の発色の伊羅保釉薬が出来上がる。

塩化ジルコニウムラスター釉 塩化ジルコニウムを加えて得るラスター釉。
アルカリ成分に、炭酸リチウムなどを添加すると、良い結果を得る。
塩化ジルコニウム単体では銀色のラスターであるが、着色金属を混入して、様々な発色のラスター釉薬を得る。
       柿釉 酸性成分が天目釉ほど多くない調合、出来れば珪酸分を減らしアルミナ分を増やした調合に鉄分が多量(10%内外)混入した、柿色を呈する釉薬。
チタンを添加する場合が多い。
土石原料立てにするよりも、チタン分を含むような、天然の含鉄土石を使用した方が、複雑な色合いが得られる。
素地土はあまり鉄分が多く含まれた物を使用すると、柿釉がどす黒くなるおそれがある。
      亀甲貫入 亀甲貫入はもちろん着色釉薬で生まれる現象ではないが、その独特の亀の甲羅のような貫入が幾重にも重なる視覚的な効果で人気があるようです。
簡単に言えば、熱膨張率の少ない素地の上に熱膨張率の大きな釉薬を厚く掛けた時に起きやすい現象です。
熱膨張率の大きな釉薬は、長石単味のようなものが最適でアルカリ、ソーダよりもカリにこの成分を求める為に、インド長石などカリ系の正長石類が最適という事になる。
素地はなるべく礬土質の粘土にすると良い結果が生まれ易い。
珪酸分が多くなると熱膨張率が大きくなってしまうので、磁器質粘土では好ましくない。確実に結果を得たい場合には、礬土質粘土に更にシャモットなどを混合して使用すれば成功する確率がアップする。
      黄瀬戸釉 桃山時代頃の黄瀬戸釉を観察すると透明で良く解けており、おそらくは木灰単味に近いものを解かしているようである。
加藤唐九郎氏以降のような釉調の物は、例えば東京国立博物館にあるような銅鑼鉢など、ほんの数点しかなく、よく見ると生焼けのようにも感じられる物である。
そのほとんどは、黄色といってもそれほど濃い色合いではなく、素地土が透けて見え、淡い黄色をしている。
非常に静けさを感じるようなものでもある。
とは言っても、一度加藤氏の黄瀬戸などを見てしまうと、その造形の素晴らしさもあって脳裏から放れないのも致し方がない。
あれだけ黄色く発色して、しかも見事な「コゲ」も出ている。
簡単に言ってしまえば、黄瀬戸釉は高珪酸、高アルカリの釉薬であり、それに使用する木灰から鉄分を得られれば、綺麗に発色する。
要するに、原材料を吟味する事こそが黄瀬戸釉を作る勘所となるようである。
経験上、椿や楓の灰が最も適しているように思いますが、これもその樹木が生きていた土地柄にも依るでしょうから一概には言えません。
が、しかし焼成方法も独特の窯焚きが必要となる。
簡単に言ってしまえば、昇温期のある時期までは還元焼成を行う必要があり、降温期は常識では考えられない温度までコントロールする必要がある。
これを経験で習得された加藤氏の苦労は筆舌に値するものでしょう。
ある意味で、伝統の焼き物を突き抜けて、それ以上の作品を作り上げた作家は、この加藤唐九郎氏と強いて言えば荒川豊蔵氏くらいなのではないかとさえ思えます。
よく黄伊羅保釉を薄く施釉して、黄瀬戸と称する作品も見かけるが、これなら「コゲ」も簡単にできるのです。
黄伊羅保は黄瀬戸とは全く違い、高アルミナ、高珪酸の釉薬であり、加藤氏が忌み嫌ったと言われる「泥臭い黄瀬戸」がこれに当たるのでしょう。
   金色ラスター釉 長石釉薬に多量のマンガンとフッ素化合物である蛍石を加えると発色し易くなる。
これに銅やクロムを添加して得られる金色のラスター釉薬。
金色と言っても、あまり冴えた色合いではない事と、安定性が低い為か作品を見かける機会が少ないようです。
      月白釉 鈞窯の主たる釉薬である月白釉は青磁の一種であり、汝窯の青磁釉と同等の物であろう。木灰の失透釉に鉄分が融け込んだ物である。
汝窯と鈞窯の一番の違いは、その素地土であり、汝窯のそれに比べて鈞窯のそれは礬土質であり、薄茶色に焼けるが、汝窯の胎土は灰色に焼けている。
また鈞窯の土の方が、汝窯のそれよりも耐火度が高そうでありこれによって釉薬は海鼠模様のような斑点が見えているのではないかと推測される。
通常、日本で使用されるような藁灰などを使用しているとは考えられないので(水田地帯ではない)、あの斑模様は胎土の耐火度か、もしくは使用された灰の状態に依るものと考えた方がよさそうである。
釉薬の組成は、高アルカリ、高珪酸質であり、アルミナ成分は釉色に良い影響を及ぼさないようである。
   御本手と緋色の色 御本手と呼ばれる、蚊に刺されたような斑点が出来る焼き方は、本来はFe2O3の色であろう、しかしこれを焼成するには必ず焼成時の的確な時間帯に還元炎に晒される必要があるFe2O3(Fe3+)を還元する事でFe2+となり、瀬戸黒などは急冷によって鉄分がFe2+に固定された色であろう。
Fe3+の色だと云うのに、還元しなければならない理由は何なのか。
陶芸活動で一番よく目にする光景としては還元焼成した後の窯内耐火煉瓦の色であろうか酸化焼成では真っ白なのに還元焼成では赤っぽい色になっている。
炉内素材に存在するムライトにFe3+は取り込まれるが、Fe2+は取り込まれない。
つまり、還元焼成した時のFe2+は鉱物のムライトに取り込まれずに分離、遊離したままとなり器物の表面に存在する。
しかし、還元焼成をおこなった場合でも、降温期には必ず酸化されるので表面上に遊離していたFe2+は再び酸化されてFe3+となり、見た目には赤色、つまり緋色となる。
緋色の丸い斑点の中心部に極小さなピンホールが認められる事が多いのは、元々あったピンホールの周囲だけが降温期に酸化されやすいからであろう。
粘土なぢに含有されている時点では、赤色には見えなかった、もしくはFe2+の状態で保存されていたものが、Fe3+→Fe2+→Fe3+とう変化を経て、赤色に写るのでしょう。
また上に施す釉薬も、灰釉が最も適当であり、これは木灰に含まれるカリ分が供給される事と燐酸分が供給される事で発色に良い影響があるようである。
釉薬に使用する長石類もカリ長石を用いると良い結果が生まれる筈である。
また石灰釉もそれに次いで適当である。
亜鉛釉やマグネシア釉、つまりタルク釉やドロマイト釉は避けた方が無難であろう。

安直に酸化焼成で緋色っぽい色を出したい場合には、塩化カリウムを使用すれば良い。
砂金石(アベンチュリン)釉薬 キラキラと光る金色の細かな結晶が析出した釉薬。
アルカリ成分の勝った釉薬に、酸化鉄と酸化チタンを多量に添加すると得られる。
焼成の降温期に除冷を行うと、一つ一つの結晶は大きく育つが、表面は荒れてくる。
珪石分よりもアルミナ分を増した方が結晶の出方は安定するようである。
鉄分としては四三酸化鉄や黒浜なども用いられる。
   ジオプサイト結晶釉
釉薬表面に透輝石(Diopside:ディプサイト)という鉱物の結晶を析出させる結晶釉薬。珪酸分とマグネシア分を多く含む釉薬を焼成し、降温期に除冷すると得られる。
各種酸化金属を添加した時の色合いの変化を楽しむには好ましい結晶釉薬である。
亜鉛結晶のように、比較的大きな結晶が得られるので、派手な印象を受ける。
      志野釉 風化長石の単味釉。
ただし、素地土は礬土で耐火度の高い物を使用すると、雪のように白い志野が得られる
なるべく風化の進んだ長石を単味で使用す事が肝要であり、流紋岩系の物でも使用可。
織部志野のように弱冠の透明感を得たい場合には、木灰を混ぜる方法もあるが、むしろ素地土によく焼き締まる物を使用して透明感を得た方が、風格のある作品になりやすい。
数年前、美濃地方で古陶に利用されていた風化長石と同じ成分の物が、河川土木工事中に発見されたとの報道があったが、既にコンクリートで覆われてしまったようで残念である志野に用いる鉄絵の原料には、鬼板や水打粘土、そぶ、などが利用される。
天然原料の方が窯変や素朴な味わいが得やすい為と考えられる。
尚、紅志野、ピンク色で半透明の志野釉を得たい場合には、風化の度合いの弱冠弱めの風化長石を低い温度で焼成する。
焼成は強還元焼成後、酸化させる。
また、故加藤唐九郎氏の作で有名な「紫匂ひ」の系統の発色は、天然の赤色酸化鉄系統の混入した素地土を用いて得る。
    蒸着ラスター釉 正確には、釉薬では無く、水溶性金属類。
窯内に蒸気として吹き込むか、取り出した作品に吹き付ける、もしくは溶解してしまう低温度釉薬などに混入して使うラスター現象を起こす金属類。
ガラス工芸の世界では古くから使われている技法であるが、陶芸ではあまり使用されていない為、時として曜変天目茶碗の偽造に使用する作家も居る技法。
使用される金属類は主に塩化錫や銀、チタン、インジウムなどである。
大概は品格の無い、石油を水に垂らしたような虹色となる。
安物の西洋磁器などでは多用される技法。
辰砂釉(牛血紅、鶏血紅など) 透明釉薬に銅分を加え、還元焼成して得られる赤苦発色する釉薬
透明釉薬は青花用などち比べて、弱冠アルカリの多い物の方が色彩が冴える。
色が抜けやすく、素地が見える部分が出来やすいが、これを防ぐ為に酸化錫などを添加する事が知られている。
焼成時の降温期、特に1000度から下の領域で発色する色彩である為に、ここで除冷したり、二度焼きでこの温度域に3時間保つなどの対策も講じられる場合がある。
透明釉薬の性質を代える事で色調に変化が出る為、工夫が必要である.
    青磁釉(汝窯)
その歴史が短かったせいと、素晴らしい青磁を焼成したことで知られる汝窯も、1987年には発掘調査が行われた。
地理的に鈞窯との密接な関係が窺い知れる。
汝窯の青磁と鈞窯の月白釉は同系列のものである。
しかし、使用された素地土の違いによる釉調への変化の方が大きいと考えるべきか。
汝窯青磁は基本的には、高珪酸、高アルカリの釉薬に1%内外の鉄分が融け込んでいる。当時は土石立ての釉薬では無い筈であるから、珪酸質の岩石類に木灰を加えただけの物である可能性が高く、簡単に言ってしまえば木灰の失透釉である。
釉色に緑色味は感じられず、何処までも青い。
   青磁釉(龍泉窯など) 汝窯の青磁とは釉薬の組成が全く違うもので、釉色には緑色味がある。
基本的に汝窯の釉薬が木灰の失透釉とするならば、龍泉窯などの青磁釉薬は木灰の透明釉であり、むしろ素地の土との相性で釉色に深みを持たせるタイプのものであろう。
素地土にアルミナ分が多くなると、緑色味も増えると思われ、磁器質の鉄分を含んだ物が適合するのであろう。

     瀬戸黒釉 志野の色味として引き出されたと言われているが真相は定かでない。
高アルカリ、石灰釉(灰釉)
含鉄土石類、「鬼板」やそぶ」、「水打粘土」などと、木灰を混合しただけと思われる釉組成であり、1,150度近辺の温度にて窯内から引き出して急冷したもの。
急冷する事は還元作用も期待でき、Fe3+になろうとする鉄分をFe2+に固定する事に一役かっていると思われる。
そのまま窯内で冷めさせたり、何らかの酸化作用が加わると釉薬は茶褐色の渋紙のような色へと変貌する。
窯内から引き出し、急冷する際に窯内の還元濃度よりも更に濃い還元雰囲気に晒す事で、釉薬表面にラスター状の光彩を発現させる事なども行われているが、古陶のそれは、どのような条件下でこの現象が起きているのかを知る事は出来ないが、現在では引き出し後に水等に浸けずに籾殻に埋めたり、極端な場合にはエタノールに浸けるなどすれば、光彩現象は起きやすくなる。
      蕎麦釉 石灰分とマグネシア分に富んだ釉薬に鉄分が融け込んだもので、黄緑色や黄褐色の細かな結晶の析出した、一種の結晶釉である。
ただし、マグネシア分が増えるとともに色調は暗くなる傾向があり、また酸化焼成では黄色系の、還元焼成では緑色系の結晶と成りやすい。
釉薬の肌が蕎麦に似ている処から、蕎麦釉と名付けられたと言われている。

  タングステン酸結晶釉 故藤井茂夫氏が1970年代から得意とされた、星形で虹色を呈する結晶釉薬。
タルク釉薬などにタングステン酸化合物を添加して得られる結晶釉薬であり、地の釉薬は黒色の物を用いると、より結晶の形で虹色が引き立てられる。
古い研究書には、このタングステン酸と一緒に、モリブデン化合物やバナジウム化合物を同時に釉薬中に添加すると、より虹色がハッキリと析出する由の記述が見られるが、当方の実験では確かめられなかった。
混合物として、ビスマスやチタンなどが有効である。
    チタン結晶釉 アルミナと珪酸分を減らした長石釉薬に媒溶剤としてバリウムなどを添加し、チタンを多量に含有させた結晶釉薬。
着色剤を用いなければ、白いマット(艶消し)の地に丸い結晶が多数現れる。
着色剤を添加すると、パステルカラーの地に丸い斑紋が現れ、現代的な印象の結晶釉薬。
      鉄赤釉 長石釉に酸化鉄を12〜15%と多量に用いると発色する。
石灰分とマグネシア分を媒溶剤に用いるのが一般的で安定化し、鉄の発色を赤色にする為の補助剤の役割として燐酸カルシウムも多量に添加される。
酸化焼成よりも還元焼成を適度に行う事で斑紋が大きくなり易い。
比較的新しく名工試で開発された釉薬である。
      鉄砂釉 これが鉄砂釉だという厳密なものは無いようであるが、一般的に小豆色の細かな結晶が浮かんだ鉄釉薬の事を鉄砂釉と呼んでいるようである。
色合いは主に小豆色から黒色で、弱冠アルカリの勝った釉薬に鉄分を15〜20%と過剰に加えた場合に得られる。
おそらくは、鉄分を多量に含んだ土石に木灰類を混合した時に生まれた釉調だと思われる。
   天目釉(黒天目釉) 鉄分のみ(天然原料から入る微量成分は除く)による発色で得られる黒い釉薬。
天目茶碗の産地である建窯系の窯場ではあまり見られず、中国北方の窯で多く生産されている。
現代の陶芸材料として販売されている黒天目釉には、安定して黒色を得る為に、他の酸化金属類を混入した物も見かけるが、厳密にはこれは黒天目釉ではなく、黒い色釉と呼ぶ方が混乱が無いであろう。
鉄分のみの黒天目釉は、酸性成分(アルミナや珪酸分)が比較的多めの基礎釉に鉄分を入れた場合に得られ、口縁付近が飴色や柿色に変色する事も多く見られる。
天然の含鉄土石類を使用した黒天目釉の方が、釉に変化が見られ好ましい。
マグネシア成分を投入すると紺黒色になると古くから言われているが、あまり多く入れすぎると、釉に固さが出来て柔らかみに欠ける。
   澱青釉(鈞窯釉)
一般的に鈞窯釉と呼ばれている釉調の物。
乳濁釉に銅成分が融け込んだもので、青から赤に掛けての比較的派手な印象の色合いとなる。
日本では、乳濁釉薬を作製する場合には藁灰等を使用するケースが多いが、鈞窯の澱青釉を観察すると、藁灰類の混入とは見えず、月白釉に銅分が融け込んだものと思われる。
製品を見ると、銅成分を筆で塗ったと思われるものや、霧吹き、または蒸散作用に依ると思われるものまであり、どの範疇までを澱青釉と呼ぶかは判断が難しい。
月白釉は高珪酸、高アルカリの成分でありこれは簡単に言えば、灰の失透釉でありこれを利用すると格調が高いものが生まれ易い。
白く斑状に見える海鼠状の斑紋は、混入した灰から来るものと同時に鈞窯の素地土の影響に依るものと思われる。
珪土よりも弱冠礬土質の耐火度の高い素地土の影響ではないだろうか。
しかし、この灰の失透釉は非常に不安定な釉薬でもあるので、一般的に使用する鈞窯釉には、やはり藁灰や融けの悪い物質を混入して乳濁釉薬を作製した方が間違いが無い。

  兎毫盞:禾目天目釉 建窯の主製造製品であるが、福建省近辺の窯場からは茶洋窯、吉州窯などからも少数ではあるが、この禾目天目の破片が見つかっているようである。
中国当局によっても、建窯の発掘調査はかなり進んでおり、禾目天目の釉薬も素地も化学的な成分分析が多数行われている。
その結果を見ても、通常の天目釉と何ら変わるところはなく、強いて言えばチタンや燐酸分が含有されている事であるが、それも天然含鉄土石類と木灰を混合した釉薬であると考えると、何らの不思議はない。
またゼーゲル式を計算し、同じ成分調合を試みても、禾目天目とはならず柿釉に近い釉調のものが出来るだけである。
これは、酸化焼成、還元焼成をいろいろ試みてもたいした変化は起きない。
現代の釉薬の調合法で、この禾目天目を再現しようとすると非常に困難が伴う。
アルカリ分としてリチウムなどの強力な媒溶原料を添加すると、禾目天目風の釉調は得られるが、建窯のそれのように力強い模様とはならず、建窯の禾目の逸品である、いわゆる銀の禾目は生まれない。
因みに、銀の禾目の中には曜変天目茶碗と同じような青白い遊色効果を持つ物があり、これも禾目天目と曜変天目茶碗との深い関係を伺わせるに充分である。
結局、建窯系の禾目天目に現れる筋状の紋様は、現地の原料の持つ独特の性質としか言いようがないのではないだろうか。
    トルコ青釉 本来は中近東地域で作られた低火土釉を銅で青く発色させたものである。
このままでは現代では陶器作製には不向きな為に、新たに高火度釉として開発された物を一般的にはトルコ青釉と呼んでいる。
アルカリ分の勝った釉薬に銅を添加(1%〜2%)して発色させる。
使用される媒溶剤はリチウム、石灰、バリウムが適しており、これらが50%内外を占める調合とすると透明なトルコ青釉薬となる。
素地土は磁器質の白く焼き上がる物が向いており、礬土質の素地に施すと緑色の発色になってしまうが、これはこれで他に無い傾向の緑色なので利用価値はあるかもしれない。
トルコ青釉薬には、この透明な物の他にマット系統のものも有る。
アルカリの量は変えずに、珪酸分を減らし、アルミナ分を増やしアルミナのマット釉にする事で艶のないトルコ青釉となる。
また、失透のトルコ青釉も綺麗であるが、これは透明のトルコ青釉に酸化錫や酸化ジルコニウムなどの金属を混ぜる事で得られる美しい青色である。
   ペルシャラスター彩 自分で試験等を行った事がないので、あくまでも聞きかじりではあるが、一般的に銅などは強い還元作用を受けると金属銅に戻ろうとする作用が働き、金属様の光彩を放ちやすい塩化第二銅などに銀化合物を混合し、本焼き後の器物に模様を描き再焼成し、一定の温度域にて、強い還元作用に晒す事で金色に近い発色が得られるという。
ラベンダー油などで作った絵の具を溶いて使用する場合が多く、今では市販のこの類のラスター絵の具も市販されている。
   ニオブラスター釉 酸化ニオブを釉薬中に添加して得るラスター釉薬。
他の金属を着色剤として用いないと銀色のラスターであるが、金属類の添加により、各種着色されたラスター釉調を得る
   灰被ぎ天目の釉薬 中国は福建省の茶洋窯系の窯場にて焼かれたという天目茶碗です。
灰被ぎ天目とは日本の茶人の命名に依ると思われるが、実際には二重に掛けられた天目釉薬である。
下には鉄分を多く含有する土石類を掛け、上掛けで透明に近い灰釉薬を掛けているようである。
伝来の製品の中には、風化のせいかは定かではないが、虹彩を発する物もあるが、建窯製品の虹彩とは趣が違い、いわゆる銀化に近い色彩を持つ。
   パールラスター釉 オパールラスターとの銘々も多く、塩基性の炭酸鉛(鉛白)、亜鉛を使用した釉薬。
高火度ラスター釉であり、通常はSK9程度に設定されている。
通常は真珠状の銀白色であるが、これにメタバナジン酸アンモンやチタンなどを添加する事で、虹色の呈色となる。
通常は酸化焼成で降温期に除冷するが、焼成雰囲気に工夫する事で、時として三角形や星形の虹色結晶が表面に析出する事がある。
    マンガン結晶釉  長石釉にマンガンを多量に添加して得る結晶釉薬。
通常は渋鉄色の地に渋褐色の結晶となるが、未だ実験はしていないが、バナジウム類やチタンの添加により、美しい色調も可能なのではないかと思う。
作品にこの釉薬を使用した物を見かける機会は少ないが、意外と研究の余地がありそうな釉薬ではある。
   マンガンラスター釉 鉛白を多量に含む釉薬に多量のマンガンを添加して得られる虹色の高温度ラスター釉。
玉虫ラスターと呼ばれる事も多い。
地の褐色に、コバルトなどを添加して色合いを変え、虹色をより美しく見せるなどの工夫は必要で、通常はメタバナジン酸アンモンを加え虹色の発色を得る。
チタンやリチウムなどの金属を加え、結晶に変化を加え三角形や多角形の虹色結晶を析出させるとまた変化が生まれる。
しかし、析出した結晶は酸に弱い為、食酢を使った食材を盛りつける可能性のある食器などには使用しない方が望ましい。
油滴天目釉(滴珠:建窯油滴) 日本に伝来する油滴天目茶碗には二種類の物が存在する。
大阪東洋陶磁美術館の所蔵品に代表されるような建窯の製品と、各地に存在する磁州窯系の油滴天目である。
陶芸材料店などで販売されている「油滴天目釉」は、この磁州窯系の物である。
両者は似て非なるものであり、未だに作家が建窯系油滴と思われる物の再現に成功したという話は聞かないし、また見た事も無い。
1980年代に名古屋大学の名誉教授であられる山崎一雄氏が、建窯の油滴天目の破片を入手され、定量分析をされているが、何ら不思議な成分は含まれていなかったと発表されている。
曜変天目茶碗の再現をしたと発表される方は後を絶たないが、この油滴天目の再現をしたというニュースを目にしないのは、実は曜変天目の模様はやろうと思えば人為的、作為的に作る事が出来るが、油滴天目のそれは無理だからではないであろうか。
私見では、建窯の油滴天目釉は兎毫盞(とごうさん):禾目天目の物と同一の物である。焼成条件と素地土の影響で、変化すると思われる。
 油滴天目釉(中国磁州窯系) 一般的に目にする機会が多く、陶芸材料店などで販売されている物はこれである。
高酸性成分の釉薬にマグネシア成分が含まれた基礎釉薬に鉄分が6〜8%含まれると出来やすい。
気泡痕に過剰な鉄分が流れ溜まった物であり、通常では茶色味を帯びた色をしているが、現代ではこの釉薬に炭酸マンガンや酸化コバルトを混入して銀色の発色を得ている。
古来の物は、天然の原料を使用しているので、微量成分によって銀色の発色となっているのであろう。
また、マンガンやコバルトの代わりに他の金属類を添加して、様々な発色を得ていると思われる物もよく目にすることがある。
   曜変天目茶碗の釉薬 世界に三椀しか残されていない、建窯の至宝。
四椀存在したと言われるが、本能寺の変にて織田信長とともに焼失している。
漆黒の釉の表面に、ランダムに並んだ輪が有り、その周囲を暈天状に虹彩が取り巻いており、この虹彩は青銀白色で見る方向によって動いているように見える。
所々に僅かではあるが緑色や赤、黄などに見える虹彩部分も存在する。
表面の虹彩が非常に細かな繊維状結晶をしている可能性が高く、その皮膜の厚さもかなり薄い事が予想される。
兎毫盞(とごうさん)や油滴は成分分析がなされており、その結果は両者にそれほどの違いが存在しない事を証明しているが、空想ではあるが曜変天目茶碗の釉薬の成分も、それらとそれほど変わらないであろう。
高酸性の基礎釉薬に鉄分が6%内外溶け込んだだけの物であり、おそらくは現地の含鉄土石と木灰を混合しただけの物であろう。
近年、(株)リテックのH氏が実験したところによると、曜変天目の紋様の発現は二つに分けて理解する必要があると言われ、独特の虹彩を発色する釉薬と曜変紋様の出来方には、別の要因が絡んでおり、これに建窯の素地土が絡んだ、釉薬、粘土、焼成の三つがかみ合った時に、真の曜変天目の再現が成されるであろうとの事でした。
それには、化学調合された希少金属などをいくら混合しても駄目であり、曜変天目はあくまでも、油滴天目同様に兎毫盞の亜種、変種であるとの事です。
現地の含鉄土石の持つ性質にある要因が絡んで、初めて生まれるのだそうです。
ここ数十年、様々なラスター技法を駆使して曜変天目模様の茶碗を発表された方や結晶釉を使用して発表された方がいらっしゃいますが、曜変天目茶碗の紋様は結晶では無く、別の要因であり、他の焼き物にこれと同じ現象が起こった製品は見たことがないとの助言も戴きました。
蒸着ラスターや絵の具化したラスター、チタン化合物で絵付けし高温度で焼成する方法、銀化合物に依る結晶など、様々な方法で似た紋様や虹彩は生み出せるそうですが、本当に知りたいのは、建窯で偶然とはいえ、いかにして曜変天目が生み出されたのかという事かもしれません。
また、古来から伝承された。曜変天目はこうやって生まれたという逸話の中に実は真実に近いものが在るという話を聞くにつれ、神秘性がより強まった感じがしました。

    ルチル結晶釉 ドロマイト系や亜鉛釉の系統の基礎釉薬にルチル(鉄分を含むチタン鉱物)を大量に添加して得られる、朱赤の地に鈍い金色の結晶が析出した結晶釉薬。
酸化焼成で降温期の除冷が必要。



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